愛し愛されて生きるのさ6

 

船に戻ると、キッチンのテーブルには

『サンジ君、ベーグルサンドごちそうさま。お腹いっぱいだから夕飯は大丈夫よ。』

と書かれた白い紙片が置かれていた。

(遅くなっちまったもんなあ…俺としたことがナミさんに気ィ遣わせちまった)

買い物袋をテーブルに置き、申し訳ないキモチになる。

喉がカラカラだったので、とりあえず冷蔵庫からレモン水の入ったポットを取り出し、コップに注いで飲んだ。

「は~水超うめー」

2、3杯飲むと大分頭もスッキリしてきた。

今日はケビンと会えて良かった。

相手が男だって事は言わなかったが、誰にも話せなかった胸の内を吐き出せた。

ゾロでパンクしそうに苦しかった心に多少なりとも余裕が生まれたような気がした。

―海賊だったら欲しいモノは奪いとれ―

ケビンの言葉が胸をよぎる。

(俺は…ゾロに…)

ゾロの事を思うとまた胸に痛みがぶりかえしてきそうになる。

「…風呂でも入ってくっか」

気持ちを切り替え、風呂場に行こうとキッチンの扉を開ける。

扉の前には、不機嫌な顔の剣士がつっ立っていた。

「…ゾロ、お前居たのかよ」

思わずビックリして棒立ちになる。

「…腹減った」

それを聞いてサンジが笑った。

「なんだテメェ。人でも殺しそうなツラしてるから何かと思ったぜ」

「うるせえ。いいから何か作れ」

「しょうがねえ。座って待ってろ」


(俺…普通に話せてる)

ゾロと二人きりの空間にドキドキしながら、サンジは袋から今日買ったナス味だというキュウリを取り出した。

薄く切って残りは冷蔵庫にしまい、ソーセージと一緒にニンニクとオリーブオイルでさっと炒めた。

塩コショウで味付けし、鷹の爪を入れてパスタに和える。

「オラ、食え」

盛り付けた皿をゾロの前に置いた。

美味そうなニンニクの香りが食欲をそそる。

ゾロは、両手を合わせて

「イタダキマス」

と言って食べ始めた。


(コイツ変なトコで礼儀正しいんだよな…食べ方もキレイだし)

タバコを吸いながらシンクにもたれ、ゾロが食べるのをじっと見ていると

「ジロジロみんな。食いにくい」

ゾロが顔を上げて言った。

「…ワリイ。じゃ、食ったら浸けといてくれよ。俺風呂入ってくっから」

うつ向いてシンクでタバコを消すと、ヘラリと笑う。

キッチンを出ていこうとゾロの脇を通り過ぎたとき、ゾロがサンジの腕を掴んだ。

腕を捕まれたサンジの顔は眉はへにゃっと下がり、口元は真一文字に結ばれている。

ゾロがきまり悪そうに口を開いた。

「別に……出てけって言ったわけじゃねえよ」

(ゾロ…)

自分の腕を掴むゾロの熱を感じて、何だか泣きたくなってきた。

ケビンの過剰なスキンシップは何とも思わなかったのに。

「…酒持ってきてやる…離せ」

やっとの思いでそれだけ言うと、ゾロの熱が離れて行った。

もっとゾロを感じていたかったが、これ以上はムリだと思った。

その先をあさましく期待して、みっともなくしがみついてしまいそうな自分が嫌だった。

ラックから辛口の白ワインを引き抜き、キッチンの棚からワイングラスをとると、ゾロの前に置く。

背を向けて、適当につまみを作っていると、

「お前は飲まないのか?」

と声がかかった。

サンジは、シンクに向かったまま

「散々飲んだからな」

とだけ返した。

ゾロは黙って、つまみを作るサンジの細い後ろ姿をじっと見ていた。

 

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