ナミに怒鳴られたあと、ゾロは空腹と苛立ちをまぎらわそうと、甲板で串ダンゴを振り回していた。
11169回まで数えたとき、船の下から話し声が聞こえてきた。
声のした方向に目をやると、金髪のコックが、昼間一緒にいた男に抱き締められてるのが見えた。
その瞬間、目の前が真っ赤になった。
こんなに無防備な顔、自分には見せたことがなかった。
二人から眼が離せず、その場に硬直した。
何かをめちゃめちゃに破壊したいような凶暴な衝動に駆られ、こぶしを握り締めていた。
このまま戻ってきたコックと対峙したらヤバいと思った。
自分が何をしでかすかわからなくて、風呂場に直行し、服のまま水を浴びた。
コックが知らない男に抱きしめられていた光景が頭から離れない。
「くそっ」
昼間抜いたばかりなのにもうガチガチに貼り詰めたモノを取りだすと、コックの狭い入り口を思い浮かべながら抜いた。
いつだったか、コックが、Tシャツを着て、アホみたいにルフィ達とはしゃいでた時、
Tシャツの裾から白い腹が見えて勃起してしまったことがあった。
溜まっていただけだと片付けて、ずっと忘れていた。
パスタは数秒で食べ終わってしまった。
キッチンでくるくる動く細い後姿を眺めながら、コックが持ってきてくれた酒を飲みはじめたが、それもあっという間に空になった。
さっき、コックに触っていた野郎を殺したいと思った。
(俺は…アイツに触りたかったのか。)
コックが女相手にメロメロすると、ムカムカして冷たい言葉を浴びせた。
どうせ自分のものにならないから、金色の頭をなるべく視界に入れないようにしていたのか。
だが、コックに別の男が現れたとたん、渡したくないと思った。
さっきつかんだサンジの腕の感触がまだ手に残っている。
上背は変わらないのに驚くほど細かった。
そのまま自分の方に引っ張って懐に倒れこませたくなった。
肉体の欲求とは別の、もっと深いところからサンジを欲しいと思った。
コックは炒めていたものをフライパンから皿に移し、ゾロの前においた。
「あんまり食材ねえんだ。明日チョッパーと買出しに行くから今日はそれでガマンしろよ」
皿にはレタスを敷いた上に春巻と鳥のから揚げ、チャーハンが山のように盛り付けられていた。
一人分にしては多かったので
「スゲエ量だな」
と呟くと、
コックはなにやらあせったように
食材使い切りたかったからだのなんだのとゴニョゴニョいっていた。
金髪からぴょこんと出た耳がピンク色になっている。
それを見た途端、またムラっときたので、とりあえず唐揚げをガツガツ食べ始めた。
唐揚げは甘辛くてうまかった。
サンジが遠慮がちに
「ビールもあるけど…飲むか?」
と聞いてきた
「おう。うめえなコレ。ビールに合いそうだな。」
と言うと、サンジが驚いたように自分を見た。
金髪にふちどられた白い顔を見ていると、またおかしな気分になりそうで、仏頂面のまま
「…なんだよ」
コックは
「…ワリィ。もう見ねえから」
と言って、笑って下を向いた。
うつ向いてしまったので表情はわからなかったが、口元は笑顔のカタチをつくっている。
モヤモヤしてきたので椅子から立ち上がり、近づくと、サンジの緊張が伝わってきた。
小さな顔を無理やり両手で挟もうとすると
「…やめろ。」
「やめねえ」
下を向いたサンジの顔をつかみ、強引に自分の方に向かせた。
―その顔を見て…解ってしまった。
驚き混じりの声が出た
「…お前」
ゾロをみつめるサンジの灰色がかった蒼い瞳がゆれ、唇が震えだした。
ゾロは、両手でサンジの顔を挟んだまま、その唇を親指で撫でてみた。
唇の震えはますます酷くなった。